電子回路設計の基礎 > 4-3. 増幅回路の動作原理
増幅回路の動作原理
前節「4-2. トランジスタの特性」の最初に、電気信号を増幅することの重要性について述べました。電気信号の増幅は、トランジスタを用いて増幅回路を構成することにより実現することができます。このページでは、増幅回路とその動作原理について説明します。また、増幅回路の「歪み(ひずみ)」についても述べます。
1. 増幅回路とその動作原理
トランジスタを使って電気信号を増幅する回路を構成することができます。ここでは増幅回路の動作原理について説明していきたいと思います。
図1 (a) はバイポーラトランジスタと抵抗で構成されており、エミッタ接地増幅回路と呼ばれています(エミッタ増幅回路と言う人もいます)。一方、同図 (b) はMOSトランジスタと抵抗で構成されており、ソース接地増幅回路と呼ばれています。
図1. エミッタ接地増幅回路 および ソース接地増幅回路
バイポーラトランジスタとMOSトランジスタについては前節「4-2. トランジスタの特性」で説明しましたが、増幅の原理は図1 (a),(b) のどちらも同じです。ちなみに図1 (a) は、バイポーラトランジスタのエミッタ端子がグランドされているため(接地されているため)、エミッタ接地増幅回路と名付けられています。同様に同図 (b) はMOSトランジスタのソース端子が接地されているため、ソース接地増幅回路と名付けられています。
図中、GND はグランド(またはアース、接地)、 Vp は電源を表します。ここで、 Vin を入力電圧、 Vout を出力電圧としたときの入出力特性について考えてみます。
前節で述べたように、バイポーラトランジスタにしてもMOSトランジスタにしても、図2 (a) のように Vin が大きくなるに連れてトランジスタに流れる電流も大きくなります。このトランジスタに流れる電流は、抵抗にも流れます(図1 の Ir )。
図2. 抵抗に流れる電流 と 抵抗の両端にかかる電圧
このとき抵抗の両端にかかる電圧を Vr とすると、有名な「オームの法則」 V=R×I に従って Vr は図2 (b) のようなグラフになります(V:電圧、I:電流、R:抵抗値)。電流 Ir の増加とともに抵抗の両端間の電圧 Vr も大きくなっていきます。
さて、以上のことを踏まえて図1 の回路の動作を考えてみましょう。(図1 の (a), (b) どちらで考えて頂いても構いません。)図1 の出力電圧 Vout は、電源電圧 Vp と抵抗の両端にかかる電圧 Vr を使って Vout = Vp - Vr と表せます。これを図で表すと図3 のようになります。
図3. Vout - Vin特性
まず、電圧 Vin が 0V からしばらくは電流が流れないため、抵抗の両端にかかる電圧 Vr は図2 (b) からも分かるように Vr = 0 です。よって、出力電圧 Vout は図3 (a) のように電源電圧 Vp となります。
電圧 Vin を徐々に大きくしていくとトランジスタに電流が流れ始め、抵抗の両端にかかる電圧 Vr も増加していきます。そのため Vout = Vp - Vr より、図3 ( b) のように Vout はどんどん低くなっていきます。
さらに電圧 Vin が大きくなるとどうなるかというと、図2 (b) のように Vr が大きくなり続ける訳ではありません。トランジスタに流れる電流は、コレクタ-エミッタ間(もしくはドレイン-ソース間)の電圧が小さくなると、あまり増えなくなるという特性を示します。よって図3 (c) のようになり、最終的には Vout は 0V に近づいていきます。
さて図4 を改めて見てみると、赤線の部分は傾きが大きいことに気づきます。
図4. 信号増幅の原理
この傾き A を利用することにより、入力電圧と出力電圧の関係 Vout=A×Vin を実現することができます。つまり、入力電圧を増幅することが可能となります。図5 に具体的に電圧増幅の様子を示します。
図5. 信号増幅のイメージ
図5 (a) は Vin = Vb1 を中心に正弦波(サイン波)を入力したときの出力の様子を示しています。この Vb1 をバイアス電圧(または単にバイアス)と言います。それに対して、正弦波の方を信号電圧(または単に信号)と言います。バイアス電圧を中心に信号電圧を入力することにより、増幅された出力電圧を得ることができます。
同図 (b) に入力電圧と出力電圧をグラフに示します。エミッタ増幅回路(もしくはソース接地増幅回路)は、出力電圧が入力電圧を反転して増幅した波形になるという特徴があります。
また、入力に信号成分を入力せずにバイアス成分のみ与えた時の、回路の各点の電圧のことを動作点と言います。図5 のエミッタ増幅回路(もしくはソース接地増幅回路)の例では Vb2 が動作点となります。
増幅回路では、適切な動作点を得るためにバイアス電圧を与えなければならないということが重要なのです。
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2. 増幅回路の歪み(ひずみ)
先ほどの説明では、エミッタ増幅回路(もしくはソース接地増幅回路)の信号増幅の原理について述べました。増幅回路は適切にバイアス電圧を与えることにより、図5 (a) のように信号電圧を増幅することができます。
増幅回路は信号を増幅することが目的であるため、バイアスの重要性を見落としてしまいがちです。しかしバイアスを適切に与えなければ、増幅した信号が大きく歪んでしまいます。
例えば図6 のようにバイアス電圧が、図5 に比べて小さすぎると出力電圧が歪んでしまいます。これは入力された信号電圧が、エミッタ増幅回路(もしくはソース接地増幅回路)の線形近似できる範囲を越えてしまったためです。「線形近似できる範囲」とは、正確な定義とは少し違いますが、ここでは「直線と見なせる範囲」と考えてください。
図6. 増幅回路の信号の歪み (1)
このように、出力波形が歪むことを増幅回路の「歪み(ひずみ)」といいます。歪み(ひずみ)が大きいと、入力信号から大きくかけ離れた波形が出力されてしまいます。
図6 を見ると分かるように、出力の動作点が電源 Vp側に寄り過ぎていてアンバランスです。増幅回路において、適切な動作点を得るためにバイアス電圧を与えなければならないということが理解できるを思います。
また正確に言うならば、適切にバイアス電圧が与えられて図5 のように増幅できたとしても歪みは発生します。なぜならば、トランジスタの特性というのは非線形だからです。出力電圧 Vout は Vout = Vp - R×I で求められます。電流 I の特性が線形でなければ Vout の特性も線形ではなくなります。
図7 のように一見、線形のように見える波形も実際は少し歪みを持っています。
図7. 増幅回路の信号の歪み (2)
例えば、高性能な信号増幅が必要なアプリケーションの場合、この歪みが問題となることがあるので注意が必要です。
以上が、増幅回路の動作原理と歪みについての説明です。
さて、次節「4-4. 負荷線の引き方」では、図5 のように適切な動作点となるようにバイアス電圧を決める方法について述べたいと思います。