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アナログ電子回路の基礎

ここからは、第4章 「アナログ電子回路」です。このアナログ電子回路(単に電子回路と言うこともある)という分野ですが、実はかなり範囲が広く、また同時に明確な定義があるわけではありません。そのためか、例えば本屋さんに行って「アナログ電子回路」と名前の入った本を見ると、各々の本で内容が異なったりします。
そこでまず、このページ「アナログ電子回路の基礎」では、私なりにこの分野の内容を明確にして、話を進めていきたいと思います。

1. アナログ電子回路とは

冒頭でも述べたように「アナログ電子回路」という分野は範囲が広く、明確な定義があるわけではありません。そもそも「電子回路」という言葉に明確な定義がある訳ではありませんが、一般的にはトランジスタという素子を使って構成される回路のことを指します。

回路素子やICチップおよびプリント基板上の回路素子

図1. 回路素子やICチップおよびプリント基板上の回路素子

そのためアナログ電子回路とは、トランジスタを使って構成されるアナログ回路ということができると思います。アナログ電子回路の技術は様々な場面で利用されており、いくつか例を挙げると、フィルタ、A-D/D-A変換、PLL、スイッチングレギュレータ・・・などがあります。(ほとんどの場合は、アナログ回路とデジタル回路が混在しています。)

※ 本章ではわざわざ「アナログ電子回路」と言わずに、これ以降では単に「電子回路」と言うこともありますので、よろしくお願いします。

電子回路の設計とは、図1 (a) に示すような抵抗、コンデンサといった回路素子やICチップを同図 (b) のようにプリント基板上に配置して回路を構成することも指しますし、また、ICチップそのものの回路設計のことも指します。ICチップの中には、シリコンなどの半導体物質の上にトランジスタと呼ばれる素子を多数構成したものが入っており、このトランジスタを組み合わせることによって色々な機能を実現しています。

そのため電子回路という分野は、単に回路設計に関するものだけではなく、半導体物性やプリント基板の設計といった範囲まで含むことがあります。ちなみに、ICチップの中身の設計のことを「LSI回路設計」や「半導体回路設計」などと言ったりします。

さて、電子回路の範囲は広いということは理解して頂けたと思いますが、この「第4章 アナログ電子回路」で何を説明するかについて述べていきたいと思います。残念ながら、範囲が広すぎるため当サイトで全てを説明することはできません。しかし、抵抗、コンデンサ、ICチップといった回路素子を組み合わせて回路を構成するにしても、ICチップの中の回路を構成するにしても共通して必要な基礎知識があります。

今まで第2章、第3章で説明してきた電気回路制御工学も、必要な基礎知識です。加えてアナログ電子回路では、増幅回路というものを使います。この増幅回路は、これまで説明してきた抵抗、コンデンサやインダクタといった回路素子では構成できず、トランジスタを使うことによって構成可能です。

そこで本章では、まずトランジスタと増幅回路の基礎について説明していきたいと思います。

携帯電話における信号増幅のイメージ

図2. 携帯電話における信号増幅のイメージ

増幅回路は今日のエレクトロニクス分野の発展になくてはならないものです。たとえば、携帯電話などは空中を飛んでくる電波を受信して増幅する必要があります。また、世の中ではたくさんのセンサーが使われていますが、センサーの多くは微弱な信号しか発生することができず増幅してやる必要があります。その他にも、ありとあらゆる場面で増幅回路が使用されています。

この増幅回路の代表的なものの一つがオペアンプです(オペアンプについては第5章で説明することにします)。


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【特徴】
  • 無料配布している回路シミュレータ(LTSpice)を使って、色々な回路の実例を挙げ説明している。
  • 本に出てくるシミュレーション用の回路は、Webからダウンロードできる。
  • 図が多く用いられており理解しやすい。ほぼ全てのページで、本を開いて左のページに説明、右のページに図という構成で、内容も分かりやすい。
【内容】
  • オームの法則やキルヒホッフの法則、インピーダンスの考え方など、アナログ回路の理解に必要な基礎知識について説明している。
  • 電子部品(抵抗、コンデンサ、コイル、トランジスタ、オペアンプなど)の説明と、これら部品の選び方について書いてある。
  • 回路シミュレーションを交えて色々な回路の動作について説明している(増幅回路、演算回路、発振回路、フィルタ、電源回路などの基本的なアナログ回路)。
  • 変調回路、受信機など少し高度な回路についても、シミュレーションを用いて分かりやすく説明している。

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2. 本章「アナログ電子回路」で説明する内容

本章の内容は、アナログ電子回路を理解するための基礎について説明します。先ほど述べたように電子回路では、トランジスタで構成することができる増幅回路が重要な働きをします。そこで、まずはトランジスタ増幅回路の基礎について説明していきたいと思います。

またアナログ電子回路では、回路特性が動作する周波数によって劣化したり(たいていの場合は高い周波数で劣化する)、積極的に特定の周波数帯の信号を処理したりします。そこで、電子回路における周波数特性の考え方についても説明します。

最後に、アナログ電子回路に無くてはならない「負帰還回路技術」について述べたいと思います。

次節以降、本章では以下の内容について説明していくことにします。

本章で説明する内容

トランジスタの特性
トランジスタの役割りや特性、バイポーラトランジスタとMOSトランジスタの特徴の違い
増幅回路の動作原理
エミッタ接地増幅回路やソース接地増幅回路の信号増幅の原理、増幅回路の歪みについて
負荷線の引き方
負荷線(負荷直線)の引き方
バイアス電圧と信号電圧
バイアス成分と信号成分の考え方、バイアス電圧を中心に信号電圧を与える回路について
周波数特性の考え方
電子回路における周波数特性の考え方について
フィードバック(負帰還)
負帰還回路技術について

3. アナログ電子回路の本のタイトルについて

冒頭でも述べたように「アナログ電子回路」という分野は範囲が広く、そのためか、たとえば本屋さんに行って「アナログ電子回路」という名前の入った本を見ても、それぞれの本で内容が異なったりします。

本屋さんに行って本棚の前に立つと、「アナログ電子回路」だけではなく、「アナログ集積電子回路」とか「アナログLSI」だとか「アナログCMOS集積回路」だとか・・・色々なタイトルの本があることに気づきます。

もし、あなたが本を買おうとしているならば、以下の内容を読んで頂ければ少しは本選びに役立つと思います。本のタイトルによって、以下のような特徴があります。

(1) アナログ電子回路、アナログ回路 など

「アナログ電子回路」や、単に「アナログ回路」と名付けられた本は、オペアンプや抵抗、コンデンサといったICチップや部品を組み合わせて作業する方におすすめの本です。図1 (b) のように、プリント基板上に部品を並べて回路設計をされる方です。電子回路の工作をされる方もこれに該当します。

(2) アナログ集積電子回路、アナログ集積LSI など

「アナログ集積電子回路」や「アナログ集積LSI」など、「集積」や「LSI」といった言葉が入っている本は半導体回路設計をする方におすすめの本です。図1 (a) のICチップの中には、シリコンなどの半導体物質の上に回路を構成したものが入っています。このような回路の設計を半導体回路設計(またはLSI回路設計など)と言います。

(3) アナログCMOS集積回路、MOSアナログ回路 など

「アナログCMOS集積回路」や「MOSアナログ回路」など、「CMOS」、「MOS」といった言葉が入っている本もあります。これは、半導体回路設計をする方の中で、特に MOSトランジスタという素子を使ってアナログ回路を設計する方におすすめの本です。

ここで少し、トランジスタについて説明したいと思います。トランジスタで構成されるアナログ回路は、一昔前はバイポーラトランジスタと呼ばれるものが使われていました。これは、バイポーラトランジスタが様々な面でアナログ回路に向いていたためです。

かつての電子回路の設計というのはほとんどがアナログ回路の設計だったのですが、しかし、近年のデジタル信号処理技術の発展は目覚しいものがあり、それに伴い微細化や消費電力といった点で有利なMOSトランジスタを使ったデジタル回路が大きく進歩を遂げてきました。

デジタル回路が大きく発展したとはいえ、高性能な回路特性の実現にはアナログ回路が必要な場面が多いのも事実です。そのため、MOSトランジスタでアナログ回路を構成し、同一のシリコン上にアナログ回路とデジタル回路を作り込んでしまう、いわゆる「デジタル・アナログ混載」の回路設計が盛んに行われるようになってきました。

デジタル・アナログ混載の回路設計は非常に重要で、微細化がしやすいMOSトランジスタを使うことで「小型化」、「高機能化」が可能となります。MOSトランジスタの微細化は年々進んでおり、世の中の数多くの電化製品が年々小さくなり、高機能化していくことに重要な役割りを果たしてます。

次節「4-2. トランジスタの特性」では、トランジスタの動作や特性について説明します。また、バイポーラトランジスタとMOSトランジスタのそれぞれの利点についても述べています。

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