電子回路設計の基礎 > 5-1. オペアンプとは何か?
オペアンプとは何か?
オペアンプとは、電子回路の設計において様々な場面で登場する重要な回路(またはIC)です。しかし、これだけ重要であるにもかかわらず、初心者の方にとっては理解しづらく得体の知れない存在です。「第5章 オペアンプ」では、オペアンプとはどういったものなのかを分かりやすく説明しています。
1. オペアンプとは
オペアンプはOPアンプと書かれることもありますが、Operational Amplifier (オペレーショナル・アンプリファイヤー)というのが正確な名前です。また日本語では「演算増幅器」と訳されます。さて、「オペアンプとは何か?」を理解するために、まずはオペアンプの歴史について少し触れることにしましょう。
かつてオペアンプは、電子回路でアナログコンピュータを構成するための重要な回路として、盛んに研究・開発されていました。オペアンプは抵抗やコンデンサといった素子と組み合わせることで、足し算や引き算、微分や積分といった演算を行うことができるのです。
図1. オペアンプを使った演算回路
加算回路、減算回路、微分回路、積分回路と呼ばれるもので、これらを使いアナログ演算を行うコンピュータを構成し自動制御機能などを実現していました。しかし、今ではアナログコンピュータが使用されることはほとんどありません。現在のコンピュータはというと "0" と "1" のデジタル信号をひたすら高速で演算することで様々な機能を実現しています。
先ほど、オペアンプは抵抗やコンデンサといった素子と組み合わせることで、足し算や引き算、微分や積分といった演算を行うことができると述べましたが、「演算増幅器」という呼び名はこの時の名残(なごり)なのです。「演算」とは足し算や引き算、微分や積分を指し、「増幅器」とはトランジスタといった素子を用いた回路を指します。
さて、オペアンプはアナログコンピュータの衰退とともに、現在ではほとんど使われなくなったのでしょうか?いいえ、それは違います。オペアンプは現在では、かつて以上に様々な場面で使用されています。
次にオペアンプが現在、どのような回路に使用されているかについて少し述べたいと思います。
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以下に記すオペアンプを使った回路例が掲載されています。(以下は一部)
- 反転増幅回路、非反転増幅回路、電圧フォロワ(ボルテージフォロワ)などの基本的な回路
- 加算回路、減算回路、微分回路、積分回路などの演算回路
- ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタなどのフィルタ回路
- 定電流回路、定電圧回路、電流-電圧変換回路、周波数-電圧変換回路など
- 温度センサー回路、光センサー回路などのセンサー回路
- 正弦波発生回路、三角波発生回路など
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2. オペアンプの応用例
オペアンプは電子回路の設計において様々な場面に登場する回路ですが、初心者の方にとっては理解しづらく得体の知れない存在です。オペアンプは日本語で「演算増幅器」と訳されますが、この名前もオペアンプがどのようなものなのかを分かりにくくしている要因の一つのように思います。
「1. オペアンプとは」で述べたように、かつてオペアンプはアナログコンピュータを構成するための重要な回路でした。そのため現在でも、その名残(なごり)で「演算増幅器」と呼ばれています。アナログコンピュータは衰退していきましたが、その後オペアンプに関しては様々な応用に対して有用であることが分かり、盛んに使われてきました。
以下にオペアンプを使用した回路の例を挙げます。
- 高精度な信号増幅回路
- 特定の周波数を選択するフィルタ回路
- サンプル-ホールド回路
- バッファ回路
- AD/DA変換回路
- AM/FM変調回路
以上で挙げたものはほんの一例で、他にも様々な回路で使用されています。よって、現在では「演算増幅器」という名称は、オペアンプというものを正しく表現していないのかもしれません。オペアンプを一言で表現すると「様々なアナログ回路の高性能化のために使用される回路」といったところでしょうか。
オペアンプは、アナログ回路の高性能化のために不可欠な回路です。オペアンプを使用することにより、安定した出力を得たり、温度環境の変化による特性の変化を抑えたりすることができます。
3. オペアンプの理想の特性について
オペアンプ、つまり演算増幅器という名前が、必ずしもオペアンプの実態を表した呼び名ではないことはこれまでに述べた通りです。さらにオペアンプを分かりにくくしているものが、「オペアンプの理想の特性」です。
本や Web でオペアンプとはどのようなものかを調べると、オペアンプの理想の特性について書いてあるものをよく見ます。おおよそ以下のようなものでしょうか。
項目 | オペアンプの理想の特性 |
電圧増幅率 | 無限大 |
入力インピーダンス | 無限大 |
出力インピーダンス | 0 |
周波数特性 | なし |
オペアンプ内部のノイズ | なし |
特に理解しにくいのが「電圧増幅率が無限大」ではないでしょうか。理想的にはなぜ電圧増幅率が無限大なのかについては、次の「5-2. オペアンプの特徴」で説明したいと思います。
周波数特性については理想的には「なし」です。「4-6. 周波数特性の考え方」で説明していますが、一般的に電子回路の電圧増幅率は周波数が高くなると小さくなっていきます。オペアンプの電圧増幅率は理想的に無限大ですので、周波数に依存することなく電圧増幅率が維持される方がよい特性ということになります。
4. オペアンプの種類
(1) バイポーラオペアンプ と CMOSオペアンプ
オペアンプはトランジスタと呼ばれる半導体素子を組み合わせて作られており、バイポーラトランジスタを用いて構成されているものとMOSトランジスタを用いて構成されているものがあります。バイポーラトランジスタが用いられているものをバイポーラオペアンプ、MOSトランジスタが用いられているものをCMOSオペアンプと呼びます。
バイポーラトランジスタとMOSトランジスタについては「4-2. トランジスタの特性」で説明していますが、それぞれの特性に以下の表に示すような違いがあると述べました。
表1. バイポーラトランジスタ と MOSトランジスタ の特性の違い
バイポーラトランジスタ | MOSトランジスタ | |
利得(ゲイン) | ||
高周波動作 | ||
ノイズ特性 | ||
集積度 | ||
消費電力 (※ 注1) |
(※ 注1) 多機能なデジタル回路のような大規模な回路を構成した場合の比較です。
利得とは分かりやすい言葉で言えば「増幅率」です。
バイポーラトランジスタは、MOSトランジスタに比べて利得が高く、高周波動作やノイズ特性に優れています。このため一般にバイポーラオペアンプは入力オフセットが小さく、ノイズ特性がよいという特徴を持ちます。そのためバイポーラオペアンプは、音声信号を扱うアプリケーションなど低ノイズ用途に向いています。
また周波数特性も優れていることから、CMOSオペアンプよりバイポーラオペアンプの方が高周波動作に向いています。
一方、CMOSオペアンプは入力インピーダンスが非常に小さいという特徴を持ちます。これはMOSトランジスタのゲート端子が容量性結合となっており、入力電流がほぼ "0" となるためです。よって、入力バイアス電流を必要とするセンサー用途に向いています。
(2) 両電源オペアンプ と 単電源オペアンプ
オペアンプは入力可能な電圧の範囲の違いにより、両電源オペアンプと単電源オペアンプの2つに分類される場合があります。(両電源オペアンプは2電源オペアンプと呼ばれることもあります。)
一般的に両電源とは "+" と "-" の電圧によって駆動される電源のことで、例えば +10V と -10V を電源としてICや回路素子などを駆動する場合が両電源です。一方、単電源とは "+" と "0V" の電圧によって駆動される電源のことで、例えば +10V と 0V を電源とする場合が単電源です。
しかしここで注意が必要です。それは、オペアンプの種類が「両電源オペアンプ」であっても「単電源オペアンプ」であっても、両方とも両電源でも単電源でも使用することができるということです。
つまり、「両電源オペアンプ」であっても +10V と 0V の単電源で使用することができるし、「単電源オペアンプ」であっても +10V と -10V の両電源で使用することができるのです。
それでは、「両電源オペアンプ」と「単電源オペアンプ」の違いは何なのでしょうか?それはオペアンプが入力可能な電圧の範囲の違いにより分類されます。
+10V と 0V のような単電源で使用したとき、オペアンプの入力電圧が 0V のときでも正常に動作することができるものを「単電源オペアンプ」と呼んでいます。それとは逆に、単電源で使用したときオペアンプの入力電圧を 0V とした場合に正常に動作できないものが「両電源オペアンプ」となります。